導入先から連絡が来た。
「5月26日の枠に出るはずの方が、6月2日の枠に出ています」
エラーは出ていない。画面も崩れていない。止まってもいない。
日付がひとつ違うだけだった。
アプリは、頼まれた処理を最後まで実行していた。
それでも、現場では使えなかった。
「動いた」と「合っている」は、別のことだった
日付がひとつ違う。この一言の裏で、何が起きていたのか。
プログラムから見ると、この処理は成功している。
日付を読んで、計算して、画面に出した。どこにも失敗はない。
だから、エラーは一文字も出ない。
記録にも残らない。
止まらないので、誰も呼ばれない。
機械が教えてくれるのは「失敗したとき」だけで、
最後まで通ってしまった間違いは、機械には見えない。
ここが「動きました」と「使えます」の分かれ目になる。
動いたかどうかは、機械が判定できる。
処理が最後まで進んだか、途中で止まったか。
これは数えられる。
合っているかどうかは、正解を知っている人にしか判定できない。
数字が一桁ずれていれば、作った人間でも気づける。
だが「この検査の間隔は、運用上ありえない」には気づけない。
そう判断する材料を持っていない。
エラーが出ていないことは、間違いがないことの証明にはならない。
むしろ、後から出てくる厄介なものほどエラーを出さない。
前に書いた、閲覧だけのはずの職員に削除ボタンが出ていた件も、エラーは一文字も出ていなかった。
手元で動いても、その施設で動く保証にはならない
クラウドで動かすなら、異常を自動で集める仕組みを用意できる。
どこかで処理が失敗すれば、開発者の手元に通知が届くようにしておける。
だがそれも、失敗したときにしか働かない。
最後まで通ってしまった間違いは、集めようにも集めるものがない。
院内のアプリでは、もう一段手前で条件が違う。
記録を外に送れない。何かあったときの記録は、そのPCの中にしか残らない。
誰かが取り出して渡さない限り、開発者の目には入らない。
開発者がその場にいるとは限らない。
私は県外へも配れる形を用意している。
そうなれば訪問はできない。
不具合の連絡を受けても、まず同じ症状をもう一度起こすところから始まる。
それを頼める相手は現場の職員しかいなくて、頼むこと自体が診療の邪魔になる。
そして一番大きいのが、実際に動くのがその施設のパソコンだということ。
クラウドなら、同じ構成をもう一組そろえて試すこともできる。
院内のアプリでは、相手のパソコンそのものを用意することはできない。
手元で動いたことは、その施設で動く保証にならない。
違うのはパソコンだけではなく、入っているデータも、使う人の手順も違う。
だから「直しました、他は壊れていません」と言われたとき、
それが実際に確かめた結果なのか、確かめずにそう思っているだけなのかで、意味がまるで違う。
発注するとき、聞いておきたい5つのこと
発注する側から聞ける質問を挙げておく。どれも専門知識はいらない。
1. 「確認しました」と言われたとき、何を確認したのですか。何は確認できていないと言えますか。
「全部確かめました」と答えるベンダーより、
「ここは確かめました、ここは確かめていません」と答えるベンダーの方が信用できる。
2. 「本来こうなるはず」を書いたものはありますか。それを書いたのは誰ですか。
ベンダーが自分で書いた正解なら、現場の判断が入っていないことになる。
正解を持っているのは、業務を知っている側だ。
3. 職員が「なんかおかしい」と気づいたとき、誰にどう伝えますか。
気づける人がいて、伝える先が決まっていて初めて、この仕組みは回る。
「おかしい」と気づけること自体が、導入時の説明の成果でもある。
4. 今回の修正で、触っていない機能が壊れていないことをどう確かめましたか。
実際に確かめた結果か、「影響はないはず」という見立てか。
見立てなら、確かめてもらえばいいだけのことだ。
5. その確認は、次に画面を変えたときも自動でやり直されますか。それとも1回だけですか。
1回だけの確認は、次に触ったときには何も守ってくれない。
なぜ、直せたのか
カレンダーに「実施」と出す日をどうするか。
これは施設からの要求だった。
検査を受けたのが6月2日でも、カレンダー上は、予定していた5月26日の側に「実施済み」と出す。
カレンダーは予定を管理する道具なので、実施した日に印が移ってしまうと、予定の枠が空いたまま残ってしまうからだ。
この要求は、作っている側からは出てこない。
現場を回している人にしか言えない。
そして現場のパターンは多かった。
予定より遅れて来る人、早く来る人、骨密度とレントゲンを別の日に受ける人。
ひとつ直すと、別のパターンで別のずれが出た。
連絡が来るたびに経緯を聞き取り、再現するテストを書いてから直した。
それを、数えられないくらい繰り返した。
途中で作り方そのものを変えた。
それからは、同じ形のずれは出なくなった。
直せたのは、「何日の誰が、どう違っていたか」まで揃った連絡が来たからだった。
その施設には、システムを見てくれる技師がいた。
そこまで具体的に言えるのは、業務を知っている人だけだ。
このシリーズについて
院内で使うアプリを発注する側が、何を確かめられるかを書いています。
- 院内に置く理由(準備中)
- データはどこにあるか(準備中)
- 共有PC・共有アカウントという前提
- 既存システムとの接続(準備中)
- 「動きました」と「使えます」の差(この記事)
- 入れた後に起きること(準備中)

