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診療放射線技師の記録業務を自動化するシステムを開発した話

2025/7/31
AI Webアプリ

医療現場でのシステム開発と聞くと、多くの人は大手IT企業や専門のシステムインテグレーターを思い浮かべるでしょう。しかし、本当に現場で使えるシステムを作るには、「作る人」と「使う人」の間にある深い溝を埋める必要があります。

今回、ある整形外科クリニックさんから「診療放射線技師の記録業務を効率化したい」というお仕事をいただきました。1日70件近くの検査で手書きの照射記録作成に悩まれており、何かシステムで解決できないかというご相談でした。

照射録管理システムについて調べてみると、医療系の記録管理システムは一般的に数百万円規模の導入費用がかかり、さらに月額保守費用や追加カスタマイズ費用が発生することが多いようです。小規模クリニックにとっては、機能は充実していても費用面でのハードルが高いのが現実です。

そこで「現場を知る診療放射線技師でもあるエンジニア」ということで、お声をかけていただいたのです。

医療従事者でありエンジニアでもある複合的視点から、外部開発者には見えない医療現場の本質と、真に役立つシステム開発について、実際の開発事例を通してお話しします。

現場を知っているからこそ見える真の問題

表面的な課題と本質的な課題の違い

外部から医療現場を見ると「効率化の必要性」という言葉でひとくくりにされがちですが、現場で働く者が感じる「本当の困りごと」は、もっと具体的で実践的なものです。

単純に時間的負担があるというだけではありません。業務内容を理解していない分、外部の開発者には必要なところが理解されづらく、結果として現場で本当に求められている機能が抜け落ちてしまうのです。

診療放射線技師ならではの業務理解

撮影から記録まで一連の流れを実際に体験していることで、システムに本当に必要な機能が見えてきます。

例えば、1日70件近くの検査がある忙しいクリニックでの照射記録の大変さ。手書きでの記録作成は想像以上の重労働で、患者対応の合間に正確な記録を残すことの困難さは、実際に経験した者でなければ理解できません。

また、機器トラブル時の対応と記録の重要性、医師、看護師、事務との連携における記録の役割も、現場に立って初めて見えてくる課題です。監査対応時にどの項目が実際にチェックされ、どのような形式が求められるのかも、現場経験なしには分からない情報です。

小規模クリニックの内部事情

特に小規模クリニックでは、限られた人員で多岐にわたる業務をこなさなければなりません。設備投資と人件費のバランスを常に考えながら、電子カルテの導入状況も施設によって大きく異なります。

そして多くの場合、専任のIT担当者は存在しません。この現実を理解せずに作られたシステムは、どんなに高機能でも現場では使われないのです。

同業者だからできる深いヒアリング

専門用語での自然な会話

システム開発の初期段階で最も重要なのは、正確な要件把握です。診療放射線技師同士であれば、専門用語を使って技術的な要望を正確に理解することができます。

「なんとなく困っている」という曖昧な表現を、具体的な機能要件に翻訳する能力。これは同じ現場で働いた経験があってこそ可能になることです。

信頼関係構築の違い

外部のSEと現場スタッフの関係性と、同じ現場を知る仲間としての関係性では、得られる情報の質と量が大きく異なります。

本音ベースでの課題共有ができることで、実際の運用イメージを共有した仕様策定が可能になります。これにより、作ったけれど使われないシステムという悲劇を避けることができるのです。

現場の暗黙知の理解

マニュアルには書かれていない実際の業務フロー、緊急時対応での記録の優先順位、患者対応中の効率的な作業手順。これらの暗黙知は、現場で働いた経験なしには決して理解できません。

法的要件を理解した設計:診療放射線技師法施行規則第16条への対応

法的要件の実務的理解

診療放射線技師法施行規則第16条では、照射録の記録と保管が義務付けられています。しかし、単に「記録を残す」だけでは不十分です。法的に求められる項目を正確に把握し、監査で実際にチェックされるポイントを理解している必要があります。

記録の保管期間と方法についても、法的要件を満たしながら現場で運用可能な形を模索しなければなりません。

現場での運用を考慮した法令対応

理想的な記録と現実的な運用のバランスを取ることは、現場を知らなければ不可能です。緊急時でも法的要件を満たせる仕組みや、後から修正・追記が必要になる場面への対応など、実際の業務を経験して初めて見えてくる要件があります。

実際に開発したシステム:「らくらく照射録」

システム開発の背景

1日70件近くの検査がある忙しいクリニックで、手書きでの照射記録作成に限界を感じていました。患者対応の合間に正確な記録を残すことの困難さ、そして診療放射線技師法施行規則第16条への確実な対応が求められる中で、現場のニーズに応えるシステムが必要でした。

開発したシステムの特徴

データ処理の自動化

電子カルテから出力されるデータを活用し、手作業での記録作成を大幅に効率化しました。多様なデータ形式に対応し、現場での運用を考慮した柔軟な処理機能を実装しています。

法的要件への完全対応

診療放射線技師法施行規則第16条で求められる全ての項目を確実に記録し、監査対応も万全な仕組みを構築しました。現場での実務経験を活かし、法的要件と実際の運用のバランスを取った設計になっています。

使いやすさの追求

患者対応で忙しい現場でも直感的に操作できるインターフェースを実現。ITリテラシーを問わず、誰でも簡単に使用できるよう設計しました。

柔軟なカスタマイズ

各クリニックの運用方法に合わせた設定が可能で、継続的な改善要望にも迅速に対応できる構造になっています。

技術的な工夫

Djangoフレームワークの採用

Laravel経験を活かしながら、医療データ処理に強いPythonエコシステムを選択。pandasライブラリによる高速なデータ処理と、openpyxlによる柔軟なExcel出力を実現しました。

AI活用による効率的開発

開発過程でAIペアプログラミングを積極的に活用。医療特有の要件をAIと対話しながら実装することで、開発効率を大幅に向上させました。

スタンドアローン実行

インターネット接続不要で動作するよう、PyInstallerによる実行ファイル化を実現。電子カルテPCでの運用を考慮し、セキュリティ面でも安心して使用できる設計です。

導入効果

業務時間の劇的短縮

手書きで1時間かかっていた照射録作成が、わずか数分で完了するようになりました。1日70件の検査でも、記録作成にかかる時間を大幅に削減できています。

記録精度の向上

手作業でのミスを排除し、法的要件への確実な対応が可能になりました。監査対応時の書類準備も、以前とは比較にならないほどスムーズです。

現場スタッフの負担軽減

記録作成のストレスから解放され、患者対応により集中できる環境を実現。現場の放射線技師さんからは「1か月分のデータが一瞬で出力されるのでかなりありがたい」と高い評価をいただきました。

まとめ

「らくらく照射録」の開発を通じて、現場を知る者だからこそできることがあると実感しました。技術で患者さんと同僚の役に立つ喜びは、何物にも代えがたい達成感をもたらします。

現場の声に耳を傾け、本当に必要とされるシステムを開発し続けていくこと。そして、その力で医療現場を、患者さんの体験を、より良いものに変えていけると信じています。

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